COLUMN
WEBSコラム
2022.10.19

第2回「See the Stars ~海外電力事業者ニュースと肖像~」
パラダイムシフトを経て、世界的再エネ覇権企業を目指すRWE

「See the Stars」は、海外の先駆的な電力事業者を紹介するコラムです。
圧倒的なスケール、事業構築のスピード感など、日本企業に参考になる情報を提供します。

今回は「再エネ覇者」に最も近い企業と言われるRWEを紹介します。

RWEはドイツ・エッセンに本社を置く大手エネルギー事業者です。ドイツでは、E.ONに次ぐ第二位の電力事業者で、日本でいう中部電力や関西電力のポジションに類似します。RWEは、ドイツだけでなく、中欧・英国・米国で電力・ガス・水道会社の大型買収を進めました。

RWEは、2040年までにカーボンニュートラルを達成するという、他に類を見ない高い目標を掲げています。この目標達成に向け、世界規模での成長に挑む強力な再生可能エネルギー事業部門、調整力としての従来型発電所、エネルギー取引部門とポートフォリオを盤石にしています。

と、ここまで書くとRWEは順風満々、エネルギー業界の競争環境の変化に適合しながら、着実に成長を重ねてきたように受け取られるのですが、事実は全く異なります。度重なる苦境、試練、そして試行錯誤を経て、ついに現在の立場を獲得したのです。

RWEの歴史を紐解きながら、先進国における大手電力事業者のパラダイムシフトを解説します。

RWEは、1898年、ドイツのルール工業地帯にエネルギーを供給する褐炭火力発電会社として設立しました。設立時から長きに渡り、石炭火力発電を中心とする電力事業を運営してきました。しかし、2011年以降、ドイツ政府の脱原発の推進と、再生可能エネルギーシフトなどの政策に対応できず、経営は急速に悪化しました。そして、2013年には赤字決算に転落したのです。

そこで2016年、RWEは事業再生を目指し、Innogyを再エネ事業会社として分離(株式の4分3はRWE)し、上場させました。そして2018年3月、同社とライバル関係にあったE.ONとの間で資産を交換することになりました。E.ONも、再生エネルギー事業の負担増、卸電力の価格低下などにより大幅に経営が悪化した結果、2016年より大規模な再編に踏み切っていたのです。RWEはE.ONの株式の16%を買収し再エネ事業を保有する一方、E.ONはInnogyの株式の8割弱を買収し同社の送配電事業を得ました。

さらに、2019年にはInnogyの事業は全てRWEに譲渡され、風力、太陽光、水力発電事業、および、バイオマス、バイオガス、ガス貯蔵事業がRWEに移管されました。こうして、ドイツ産業史上最大規模の事業再編が成立した結果、ドイツ国内の1位、2位の電力事業者のポートフォリオは大きく変わりました。この間、わずかに4年です。

これは、革命的とも言える出来事でした。日本企業で喩えるなら、東京電力と関西電力が資産を交換し、東京電力が小売・送配電事業のみ、関西電力が再エネ事業のみを行い、残りの事業は全て他社に切り出したようなものです。これほどの規模の事業再編を、数年で実現する必要があるほど、両社の財務状況は深刻だったのです。

図 RWEとE.ONの大規模組織再編

RWEは、売上こそ全盛期の3分の1程度まで減少しましたが、EBITDAは増加傾向にあります。株式市場にも戦略が評価されて、2016年に比べて株価は3倍程度まで上昇しています。見事に「衣替え」を果たしたRWEは、再エネ事業の拡大を進め世界各地で事業開発を行っています。

2022年10月1日には、ドイツのエネルギー大手RWEは、米ニューヨークの再エネ事業者であるCon Edison Clean Energy Businessesを68億ドルで買収する旨を合意しました。Con Edison Clean Energy Businessesは3GWの再エネ発電設備を保有し、7GW分の開発中の案件を有しています。同社を買収することで、RWEの米国における再エネの発電規模は第4位(太陽光発電事業で第2位)まで成長する見込みです。

RWEは再エネへの投資を戦略的に進めており、2030年までに世界全体で500億ユーロ(約7兆円)を投資する計画です。太陽光発電や陸上風力などの再エネ設備の開発規模は、合計24GW。さらに2022年に行われた海域リース入札でも開発区域を確保しており洋上風力事業も進める方針です。

再エネ拡大、電力自由化は、一般的に大手電力会社の火力発電所を筆頭とする従来型の発電部門や電力小売部門の収益を悪化させます。日本においても例外ではなく、多くの大手電力の小売部門の販売シェアは低下し、利益率も低下しています。また、再エネ事業への対応も速やかに進んでいるとは言えません。日本でも、JERAに続く大手電力同士の企業再編、あるいは大手電力の再エネ事業の本格化のニュースを耳にする日は遠くないことかもしれません。

WEBS 海外企業調査班